2010年6月 7日 (月)

ほんとうのこと

を時折知りたくなる。
他人の感情や評価をまっすぐな形で、このまっすぐというのがくせもので。私は用心深いし、うたぐり深く臆病で卑怯だ。図々しく話し、まくし立て大概は意味があるようなないような。
ふらと地面が揺らいでいる。
簡単に言えば恐怖だが、バラバラになりそうな、分裂してしまいそうな。それも痛みを伴わず、ひっそりと花が咲くように。
原因はわからず、ただ神経をぴっと張っておかなければ。

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2010年3月 8日 (月)

横断鉄道

荒野をゆく 一匹の狼になりたい
水を求めてゆく狼に
大地のように干からびた舌を出して 砂塵によって磨がれた爪を鳴らし 潤んだ瞳を険しく細め 枯れ草のざわつきに耳をそばだて 風に花の匂いを探す 一匹の狼に
今、飼い馴らされて 小さく 小さく せこせこと廃墟に居座っている番犬のような俺は いったいなんなんだ おそらくは、いやほとんどまったく俺なのだ
歴史の名残の番犬
忠実な執行者 丁寧な案内人 もしくは小間使い
帰りの列車の中で 牙を付け 眼を細め 爪を出す 俺は一匹の狼になる
だれもがそうだ
忠実な犬だったり欲に塗れた豚だったり手抜きの猿だったりまたは猫だったりもするだろう
帰路を走る列車は脱ぎ捨てられた毛皮でいっぱいだ
瓦礫の山を過ぎ、めいめい手も振らずに蜃気楼の街へ降りてゆく
俺はもっとゆく
軋む蹄の音を聞き
ただ、いつものように 目的地に着く前に列車は折り返す
俺はまたぞろ 毛皮を拾い上げる

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2010年3月 4日 (木)

ペィパーシック

書庫に納められた眠れる縮刷版が夜になって会話する
流れた時などを我々は保有していないと
彼らとて知りはしないのだ
我々がどんな日々を過ごしたのかを
それはむしろ滞留物で我々は対流圏
雲と雨を産むわずかばりの困惑だそれらをかわいいマークの天気予報で覚えている彼ら
意地っ張りで頑固でアル中みたいにインクの臭いをぷんぷんさせてじっとりした雨の書庫で踏ん反り返ってる

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2010年3月 3日 (水)

夜会

六畳一間の小さな夜会であった
電灯は埃を輝かさせ
グラスはすぐにも汗をかいた
健忘症ぎみの青年はぱたぱたとせわしなく紙に思考を書き留める
インクは青、紙は黄の藁半紙、子供の頃に貰った戦車の文鎮は錆び付いてもう戦場には行けそうにない
しかし彼の生活が戦いでないと言い切る人間がいるとしたら、ぎりぎりと砲は動くだろう
扉が開き それはやってくる
酒の小壜と煙草
それと蛆の湧いた愛を一握り
呻きにも恍惚にも聞こえる言葉を 彼は書き留める 彼とそれとを交互に 一時間ばかりそれは居座って 薄い手を蝶のように振って出て行く
扉が閉まると散らばる紙と埃とが揺れて 彼は少しだけほっとする 世界は僕と同じなのだと。

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2010年2月28日 (日)

かげろうの道

初夏の似合うひとであった
夕暮れに蜉蝣が飛び交う道を
私は歩いていた
ジーンズと洗いざらしたTシャツが
生い茂る緑に浮かんだ
とうきびの花を私はまだみたことがない
汚れたスニーカーを履いて
干からびた蛙を避けて
帽子は被っていなかった
陽炎に左右が反転する
ひっそりと蝉は死に
温い逃げ水が押し流す
小動物的熱狂

その夏、私が見たのは
蝶の軌跡に縁取られた
遠い記憶のあなただった

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2010年2月26日 (金)

未明

どこの夢で出会ったのか?僕たちは、雨の日の薄暗い列車か真昼のバーカウンターかそれとも。
それともあれは純然たる事実に基づいたフィクションだったか。どれにしろ、もはや君は目前に存在る、乱れがちで ウィスキーの匂いのする溜息に浮かされて。
<プリムスインテルパーレス>君が囁くのは耳慣れない言語のダンス、せわしなく駆けずる足。指は軽く絡めて、できれば首も。コーラスの眉間は1/16に揺らぎ、窓外ではスプラッシュ・ホームランを待つ貪婪な少年達の護謨ボートが今にも沈みそうなくらいにぎゅうぎゅう押し合ってる。
眠ろう。ビルの窓が乱反射を始める前に、学生が参考書を閉じる前に、夜間労働者が日勤の奴らから朝刊を受け取る前に、僕たちがどこで出会ったかを記憶する前に。まだ街が暗く 総てが夢の中にあるうちに。

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2010年2月25日 (木)

列車

我々の労働とはなにか
汽車に詰め込まれる
血液のような循環
果たして我々は酸素に変わる貨幣を運ぶ
貨幣!それは二十一世紀の詩
一賎にもならぬ行動は排斥せよ!手を見つめることもなく
棄てられた無価値なものたちを
遥かな土地で、また我々は買うのだ
不可解な循環!
今、懐から抜き取られた感情さえもいつか買うだろう。見たもの触れたもの、その五感の総てに値札を見つけるだろう。
それは鮮やかで巧妙な
貨幣の仕業さ

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2010年2月24日 (水)

端末

もはや私は存在しない。
住所や氏名やうすぼんやりした青春の日々が脳のなかで、ぴりぴりと帯電している。
君はどこにいる。
白い紙に欄と印字されれば、嫌々ながらも君は書くから。その白い紙束が君が持っている君と題された意識だ。
その紙束は果たしてだれか。
私でない理由はなく、君である理由もまた、ないのだ。
情報の詰まった血袋?動き話す端末機?
いいや、
もはや何も示したくない。
その事実すらも
私の知る事実。
触れられるもののすべて
見えるものすべて
聞こえ、嗅げるすべて
それにしたってだれも
私が何なのか知りもしないくせ、紙束の如くに扱い、裁断し燃やすのだ。瞬時に炎に舐め尽くされ、溜息で舞い上がる灰を
唯一、私と呼ぼう。

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2010年2月23日 (火)

眠りは浅く

どうしようもない夢に起こされる。よそ行きの電車で懐かしむ日々に似た時間は中吊りの笑顔だけ止まっている。枯れ草とコーヒーの匂いは微かな朝、霜を踏む感触は悪くはないが足跡は嫌いだ。
囚人の希望さえ奪う窓のない書庫の黴臭さだけが美しく、ロックナンバーは因数分解で求めて。ひっそりとした情熱はシックスティーン。ナンバリングの手順を知るには年かさが足りず、よそ行きの顔がくずれることがなくなってから、巡回車の荷台の天井、左隅に古ぼけた漢数字で。
春はまだ遠く、黴は眠り、私は帯電したままそっと手を伸ばす。

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2010年2月22日 (月)

人生は

棄てられるのだと、沈みかけの太陽で眼を焼きながら思った。いや、むしろその時僕は既に棄てたのかもしれない。ぺらぺらの油紙みたいな人生を、虫を焼く少年が極稀に見せる本性でもって。
しかしながら新しい、まだ人とも呼べない何かを僕は後生大事に抱えねばならぬ。気付かぬうちに、高台の駅でかたことレールを鳴らして走る列車とそれを追いかける鈍色の煌めきを瞳に入れている間に。それはのっぺりとした、僕のささやかな夜に吐いた息だ。

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